黄金色の稲田が収穫を迎える頃、やっとこの家が完成しました。基礎工事の初日に雪が降り、あたり一面が銀世界になったことを思い出します。
住まい手のご家族は長い間、家を建てる構想を温め、育ててきました。そしていよいよ家を建てると決め、私の事務所を突然訪ねてこられました。それから二年近く、何度も話し合い、プランを重ね、ひとつ一つ納得することに使った時間は、丁寧な家づくりには欠かせないものでした。長く温めてきた「希望」は、収拾がつかないほどもり沢山でしたが、これからの暮らしを考え、ひとつひとつ整理し、できること、できないことをカタチに置き換える作業は、一方でお互いの信頼関係をつくるための時間でもあったのです。
できた家は、小さく、素っ気ないほど簡素ですが、焼杉と瓦屋根が元もとあったかのように里山の風景にとけ込んでいます。室内に入ると思いのほか広く、障子を透かした光が溢れています。素材や構造にこだわり、何よりもこれから長く住まう家族の暮らしに馴染む家ができたのかなと思っています。